在宅介護をラクに安全に!介護を見据えた高齢者向けリフォームのポイント
ご両親の高齢化が進み、将来的な在宅介護について考える時間が増えた方もいらっしゃるかもしれません。ご自宅での介護は、ご本人にとって住み慣れた場所で過ごせる安心感がありますが、同時に介護する側の身体的・精神的な負担も大きくなりがちです。
快適で安全な在宅介護を実現するためには、家そのものを介護しやすい環境に整えることが非常に重要になります。単に手すりをつけるといった一般的なバリアフリーリフォームだけでなく、介護の具体的な場面を想定したリフォームを計画的に行うことが大切です。
この記事では、将来の在宅介護を見据えたリフォームの具体的なポイントや、費用、利用できる公的支援制度について分かりやすく解説します。
なぜ在宅介護を見据えたリフォームが必要なのか
高齢になると、どうしても身体機能が低下し、家の中での移動や日常生活に介助が必要になる場面が増えてきます。介護が必要になった際に、現在の住まいが介護に適した環境でないと、以下のような問題が発生しやすくなります。
- 転倒や事故のリスク増加: 段差や狭い通路、滑りやすい床などが危険になります。
- 介護者の負担増加: 狭い場所での体位変換、入浴や排せつ介助など、住環境が整っていないと介護者の身体に大きな負担がかかります。
- ご本人の自立度の低下: 介助なしにはできないことが増え、ご本人の活動性が低下してしまう可能性があります。
- 自宅での生活継続が困難に: 介護の負担が大きすぎたり、事故のリスクが高かったりすると、施設への入居を検討せざるを得なくなることもあります。
介護を見据えたリフォームは、これらの問題を未然に防ぎ、ご本人と介護者双方にとって安全で快適な在宅生活を長く続けるために役立ちます。
在宅介護を見据えた具体的なリフォーム箇所とポイント
介護の具体的な場面を想定し、家の中のどの部分をどのようにリフォームすれば良いかを見ていきましょう。
1. 移動スペースの確保と段差解消
車椅子での移動や、介助者が横について歩くことを想定すると、通路や出入口の幅は非常に重要です。
- 廊下: 車椅子での移動には最低でも幅78cm、できれば85cm程度あると安心です。介助者が一緒に歩く場合も、これくらいの幅があるとスムーズです。
- 出入口: ドアを引き戸に変更したり、開き戸の場合はドアを外してカーテンにするなどの対応が考えられます。有効開口幅は75cm以上が目安です。
- 段差: 室内や玄関、庭への小さな段差も転倒の原因になります。スロープの設置や段差の解消工事を行います。
2. トイレのリフォーム
排せつ介助は身体的な負担が大きい介護の一つです。トイレを使いやすく、介助しやすい空間にすることは重要です。
- スペースの拡張: 車椅子での出入りや、介助者が横で作業できるスペースを確保するため、トイレ空間を広げるリフォーム。
- 手すりの設置: 立ち座りを補助する縦手すりや、座位を安定させるための横手すりを設置します。
- 便器: 温水洗浄便座は清潔保持に役立ちます。自動洗浄機能があると介護者の負担を減らせます。
- 内開き扉の変更: 万一、中で人が倒れた際に開かなくなる危険があるため、引き戸や外開き扉に変更します。
3. 浴室のリフォーム
浴室は滑りやすく、転倒リスクが高い場所です。介助を伴う入浴は、介助者にとっても大きな負担となります。
- スペースの拡張: 介助者が体を洗ったり拭いたりするスペースを確保するため、浴室全体を広くしたり、洗い場スペースを拡張したりします。
- 床材の変更: 滑りにくい、乾きやすい床材に交換します。ヒートショック対策として、冬でも冷たくなりにくい床材も有効です。
- 手すりの設置: 浴槽のまたぎ部分、洗い場、出入口など、必要な箇所に手すりを設置します。
- 浴槽: またぎやすい高さの浴槽を選んだり、埋め込み式の浴槽に変更したりします。バスボードやバスリフトの設置スペースも検討します。
- 扉の変更: トイレと同様に、引き戸や折れ戸に変更します。
- 段差解消: 浴室の出入口の段差を解消します。
4. 寝室のリフォーム
一日の多くの時間を過ごす寝室は、介護の拠点となることが多い場所です。
- 介護用ベッドの設置スペース: 介護用ベッドは通常のベッドより大きく、周囲に介助スペースが必要です。配置を検討し、必要に応じて部屋のレイアウトを変更します。
- 床材: 介護用ベッドを使用する場合、車椅子の乗り降りを想定してある程度硬く滑りにくい床材が適している場合があります。
- ナースコールの設置: 緊急時に介護者や家族を呼べるよう、ベッドサイドやトイレなどにナースコール(簡易的なものを含む)を設置しておくと安心です。
- 収納: 介護に必要な物品を手の届く場所に整理できる収納があると便利です。
5. リビング・居室のリフォーム
日中過ごすリビングや居室も、安全で快適な介護のためにリフォームを検討します。
- 家具の配置: 通路を広く確保し、つまずきやすいものは片付けます。
- 床材: 滑りにくい素材を選びます。
- 段差解消: 他の部屋との段差をなくします。
- 採光・照明: 十分な明るさを確保し、夜間の移動に配慮したフットライトなども検討します。
介護リフォームで期待できる効果
介護を見据えたリフォームを行うことで、以下のような様々な効果が期待できます。
- 高齢者の安全確保: 転倒や事故のリスクが減り、安心して室内で過ごせるようになります。
- 自立度の維持・向上: 手すりや段差解消などにより、可能な範囲でご自身でできることが増え、活動的に過ごせます。
- 介護者の負担軽減: 移動や入浴、排せつ介助などがスムーズに行えるようになり、身体的・精神的な負担が軽減されます。
- 在宅介護の継続: ご本人も介護者も無理なく生活できるようになり、住み慣れた自宅での生活を長く続けることが可能になります。
- 家族の安心感: 家族全員が安心して過ごせる環境が整います。
費用目安と利用できる公的支援制度
介護を見据えたリフォームにかかる費用は、工事内容や規模によって大きく異なります。一般的な目安としては、手すりの設置や段差解消といった小規模な工事であれば数万円から、浴室やトイレの改修を含む大規模な工事になると数十万円から100万円以上かかる場合もあります。
このような介護のためのリフォームには、公的な支援制度を活用できる場合があります。
介護保険の住宅改修
要支援または要介護認定を受けている方が対象となる制度です。原則として、かかった費用の9割(所得によっては8割または7割)が支給され、支給限度基準額は一生涯で20万円です。つまり、自己負担は原則1割(最大で2万円)となります。
対象となる工事は、以下の通りです。
- 手すりの取付け
- 段差の解消
- 滑りの防止及び移動の円滑化等のための床材の変更
- 引き戸等への扉の取替え
- 洋式便器等への便器の取替え
- その他、上記の住宅改修に付帯して必要となる工事
ただし、介護保険の住宅改修を利用するには、工事前に事前の申請が必要です。必ず担当のケアマネジャーに相談し、手続きを進めてください。申請前に工事を始めてしまうと、原則として保険給付の対象外となりますのでご注意ください。
その他の補助金制度
お住まいの市区町村によっては、介護保険とは別に独自の高齢者向け住宅改修助成制度などを設けている場合があります。対象者や工事内容、助成額などが異なりますので、お住まいの自治体の窓口(高齢者福祉課など)や地域包括支援センターに確認してみることをお勧めします。
信頼できるリフォーム業者の選び方
介護を見据えたリフォームを成功させるためには、適切な業者選びが非常に重要です。以下の点を参考に、信頼できる業者を見つけましょう。
- バリアフリーや介護リフォームの実績が豊富か: 高齢者や要介護者の視点に立った提案ができる、専門知識を持った業者を選びましょう。過去の事例を確認することも参考になります。
- 福祉住環境コーディネーターやケアマネジャーとの連携: 介護保険の住宅改修を利用する場合、ケアマネジャーとの連携が必須となります。普段からケアマネジャーと協力してリフォームを行っている業者だと安心です。福祉住環境コーディネーターの資格を持った担当者がいる業者も専門性が期待できます。
- 丁寧なヒアリングと提案力: ご本人やご家族の状況、将来の介護方針などをしっかり聞き取り、最適なリフォームプランを提案してくれるかを確認しましょう。
- 複数の業者から見積もりを取る: 複数の業者から相見積もりを取ることで、費用だけでなく、提案内容や担当者の対応などを比較検討できます。
まとめ
将来の在宅介護を見据えたリフォームは、高齢のご両親が安全に、そしてご家族が無理なく介護を行うために非常に有効な手段です。早めに検討を開始し、ご本人やご家族の状況に合わせて計画的に進めることが大切です。
どこをどのようにリフォームすべきか分からない、費用がどのくらいかかるのか不安、といった場合は、まずはお近くの地域包括支援センターや、バリアフリー・介護リフォームの実績が豊富なリフォーム会社に相談してみることをお勧めします。専門家の視点から、現在の状況に合った最適なアドバイスや提案を受けることができます。
安全で快適な住環境を整えることで、ご家族皆さんが安心して、そして笑顔で過ごせる未来につながるでしょう。